ちいさな天才ハイジャンパー

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 夏のグラウンド。クッション材が使われた、赤い地面が懐かしい。跳ばなくなってまだ二週間しか経ってないのに、おかしな話だ。  使い慣れたシューズで、何度もジャンプする。 「いけるか」  グラウンドを臨む観客席の下、顧問の先生が低い声で聞いてくる。  目の前にはまぶしいトラックの白線が見える。  ここは、各校の選手が控えるグラウンドの隅。野球場で言うところの、ベンチみたいな場所だ。 「いきます」  おれはうなずいて、日影から出る。  トラック競技が絶え間なく行われている周囲で、走り幅跳びや走り高跳びの予選がはじまっていた。  エントリーリストには予選二組におれの名前が書いてある。一組と合わせて、約六十人が参加する予定だ。ここから、上位十数名だけが決勝へ進める。  バーは五センチずつあがっていき、今、百七十センチメートルに設置されたところだった。競技中、選手は任意でパスをすることができる。すべてのバーを跳ぶよりも体力を温存できるから、跳べる自信のある高さのときはパスをするひとが多い。  けれど、ひとつの高さに対して三回行う試技を三回とも失敗した場合、前に跳んだバーの高さがその選手の記録となる。いきなり二メートルに挑戦して失敗したら、そいつの記録はゼロだ。
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