ちいさな天才ハイジャンパー

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 おれは跳ぶひとの少ない低いバーから、十センチ刻みで跳んでいる。走り込みは現役のときと同じくらいしていても、跳ぶ感覚というのはとにかく何度も跳んでみないことには戻らない。でも、跳びすぎれば体力がなくなる。  二メートルを跳ぶには、気力と体力が満タンでなければかなり厳しい。  それでもおれは、今日この会場にいるハイジャンパーの誰よりも多く跳ぼう。  顧問が言ってたんだ。  ふつうなら、とっくに退部届けは受理されて、大会になんて出られる身分じゃなかったんだぞって。でも演劇部のおまえの友達が必死に頼み込んでくるから、二週間の休部扱いにしといてやったんだってさ。  いい友達だなって言われたよ。  おれは笑ってやった。だっておれら、仲良しこよしって感じじゃなかったじゃん。あいつはおれのストーカーだよ。ただの変態だ。  まあでも……あいつがいなかったらおれはまた跳ぼうなんて思わなかったかもしれないから、今日、今このときから友達ってことにしてやらなくもない。  ついでに、お前のために跳んでやってもいい。  おれみたいな頭の悪いちびが跳んでるのを、唯一、きれいだと言ったお前のために。
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