ちいさな天才ハイジャンパー

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 マネージャーがタオルを渡してくれた。  ハイジャンの後輩が、スポーツドリンクを差し出してくれた。  他の競技で勝ってきたやつ、負けてきたやつ、同級も後輩もじぶんの種目が終わったやつらが声をかけてくれる。  やれるよ。  お前ならやれる。  二週間ぽっち、なんてことないだろ。  去年だって跳べたんだ。  二メートル、跳べるよ。  今年も跳べるはずだ。  跳べないわけがない。  行け。  行ってこい。  跳んでこい。  跳べ、空一!  最後に、聞こえるはずのないあいつの声が聞こえた気がした。  あ、これ、跳べる。と思った。  おれの背中は弓なりになって、バーの上を越えていく。  あいつが言ってた、無声映画の一瞬がおれにもわかったよ。  青空だけが視界を埋めて、世界は無音に包まれる。
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