ちいさな天才ハイジャンパー

17/17
前へ
/17ページ
次へ
「……もっと跳びたかったな」  今大会、決勝に進んだのは二メートル七センチ以上を跳んだ十二名の選手たち。運営部のひとたちは今年は豊作だった、優秀な選手が多かった、と言ってくれたけれど、おれが予選で敗退した事実は変えられない。 「また大学でも跳べばいい。これで終わりじゃない」  顧問の慰めがくすぐったくて、おれはそれについては何も言わずにおいた。何しろ陸上部の葛城空一の夏は終わったが、演劇部のおれの夏はまだ続いている。  時刻は十二時半。  正直間に合いそうにない。しかもおれには、予選敗退の報告しか手土産がない。  ……いいか、それでも。  怒られたら、いつもの口喧嘩がはじまるだけの話だ。せめて、開演に間に合わなくても、あいつらの舞台だけは見届けたい。おれをこの場に押し戻してくれたひとたちだ、あとでたくさんお礼をしよう。  でもまずは、この夏が終わったらあいつに見てもらわなきゃな。  ここで後輩たちが撮ってくれていた、おれが跳んだ瞬間を。  高校最後の一瞬を。  きっとまた、きれいだって言ってくれるだろ?  あれ、本当はけっこう嬉しかったよ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加