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「……もっと跳びたかったな」
今大会、決勝に進んだのは二メートル七センチ以上を跳んだ十二名の選手たち。運営部のひとたちは今年は豊作だった、優秀な選手が多かった、と言ってくれたけれど、おれが予選で敗退した事実は変えられない。
「また大学でも跳べばいい。これで終わりじゃない」
顧問の慰めがくすぐったくて、おれはそれについては何も言わずにおいた。何しろ陸上部の葛城空一の夏は終わったが、演劇部のおれの夏はまだ続いている。
時刻は十二時半。
正直間に合いそうにない。しかもおれには、予選敗退の報告しか手土産がない。
……いいか、それでも。
怒られたら、いつもの口喧嘩がはじまるだけの話だ。せめて、開演に間に合わなくても、あいつらの舞台だけは見届けたい。おれをこの場に押し戻してくれたひとたちだ、あとでたくさんお礼をしよう。
でもまずは、この夏が終わったらあいつに見てもらわなきゃな。
ここで後輩たちが撮ってくれていた、おれが跳んだ瞬間を。
高校最後の一瞬を。
きっとまた、きれいだって言ってくれるだろ?
あれ、本当はけっこう嬉しかったよ。
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