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とりあえず一週間経ったあたりで思ったのは、おれたちは完全なる水と油だってこと。ストーカー野郎はおれを脳筋って言って何度も台本読ませたし、おれはあいつをガリ勉って言ってグラウンドを走らせた。
おれたちは部活をはじめる前、体力作りのために持久走をするんだ。それが終わったら発声練習、読み合わせ、そしてようやく演技の練習をやる。だから、発声練習までは飛び入りのおれがぶっちぎりで優秀だ。
「てめー、ちんたら走ってたら体力なんてつかねぇぞ!」
「もっ、もう、教室戻ろ……」
「これだからガリ勉野郎は! 身体もガリガリか、ああん!?」
「あのなあ! 俺はどちらかというと頭脳派なの。武士も読めない筋肉バカと一緒にするな!」
「あんだと!?」
息も絶え絶えでのたのた走るあいつを蹴飛ばして、十五周走らせる。おれはこれでも物足りなく感じるから、部活が終わったあともう一回十五周走るようにしてる。それでも足りないと思う日もあって、何かに追い立てられてるみたいに一駅分走って帰ったりすることもあった。
「いやあ、もう、間に合わないかと思ったけどなんとかなるものだねぇ」
演劇部の紅一点、ポニーテールの副部長が遠い目でつぶやくと、もうひとりのメンバーが深くうなずいた。一応、このふたりをメインにして物語は進行していく。元くのいちの町娘と、気弱な武士が悪の領主を引きずり落とす世直しものだ。
おれは町娘が身を寄せている商家の旦那役。
あいつは脚本と領主を担当している。
照明や音楽はクラスの誰かさんと顧問の先生を駆り出して、衣装は演劇部にもともとあった浴衣を拝借した。
だいたい台詞も覚えたし、言葉に比べれば身振りや表情のほうが作りやすいからそんなに問題じゃないとして、あとは緊張に足をとられないかどうかが鍵を握る。
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