ちいさな天才ハイジャンパー

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 コンクール当日。  インターハイの決勝で、バーごとセーフティマットに落ちる夢を見た。  三度ある試技を、三度とも失敗した。  ある日の大会と同じ、二メートルのバーだった。  市民会館前に着いたおれの心臓は、やたら騒いでいた。  今日は夏の総合体育大会、三日目。全日程六日で行われる、全国規模の大きな大会。日本中が学生たちを応援する、熱い夏がもうはじまっているんだ。  そんな中で、ひっそりと開催される芸術コンクール、演劇部門地区大会。  出場校は全部で六校、各校持ち時間が一時間十五分と決まっている。  続々と集まる六校の演劇部員と、その保護者たち。三十人近くの部員がいるのには驚いたが、陸上大会と違って雰囲気はとても落ち着いたものだ。いっそ密やかですらあって、ロビーではみんなもそもそとしゃべっていた。 「おし、全員揃ったな」  部長が迷子になりかけるというギャグが発生しそうになったが、とりあえずメンバー四人は観客席に移動する。高校ごとに座る席が決まっていて、じぶんたちの演目の二つ前がはじまったら控え室に行くらしい。そんなに大きな会場じゃないから、控え室は何個もないんだとさ。 「九時半から開会式だ。十時にトップバッターが舞台にあがるから、そこからは自由行動な」 「はいよ。部長は全演目見てる予定?」 「俺はね。でもおまえらは好きにしてていいよ。緊張するんなら、外に出てもいいし」 「了解!」  我が部の紅一点はうきうきと了承して、開会式が終わったとたんに席を立った。もうひとりのメンバーは静かに座ってプログラムを見てる。
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