第1章

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「いい天気でよかったなー」 「そうだねー」  私は彼に合わせるように伸びをしながら頷いた。緩んだ上着のニットをしっかりと張って胸を強調させるが何の反応もない。 「お、舞、見てみい、あそこに狐がおるで」  私はバックミラーで確認する。そこには道路に突っ立っている狐がおり、お行儀よく座っている。 「うんうん、可愛いねぇ」  私はなるべく新鮮味があるような声を出した。しかしこの狐、同じものではないがもう三日連続で見ている。さすがに毎回狐を見たからといってときめいてもいられない。 「おし、今日は海鮮丼やなぁ。楽しみやでぇ」 「うんうん、楽しみ楽しみ」  私と篤(あつし)は昨日とは別の所に泊まる。今日は少し高めの温泉旅館に泊まるのだ。もちろん狙いは温泉ではなく浴衣にある。最悪、ここで勝負を掛けようと思っていたのだ。  今日は北海道旅行、知床(しれとこ)3日目だ。明日は札幌の方に戻るため移動だけとなり、泊まれば次の日には帰らなければならない。  私達は遠距離の三十路(みそじ)カップルだ。私が福岡で彼が大阪にいて、2ヶ月ぶりに会うのだが、今の所、何の行為もない。同じ部屋に泊まっているのにだ。
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