第1章

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 私は怒りの余り、突入することを決めた。北海道までわざわざ遊びに来ていて、夜は他の女と遊ぶとはいい度胸だ。遊び人という職業があるのであれば彼は適正だし、ひょっとすると遊びの達人の賢者様になれるかもしれない、という妄想が膨らんでいく。  録音のできるスマートフォンを片手に握り、彼女の部屋を捜索する。厳格な家庭で育ったので、夜遊びするために適した隠密行動は得意分野だ。まさか北海道に来てくの一になるとは予想していなかったが、これも結婚のためだ。ここで万が一、彼と結婚することになっても彼の素性は確かめておく必要がある。  旅館のため、部屋はそこまで多くない。携帯電話を置いて行くくらいだから、この中にいるはずだと推理が働く。外に待ち伏せしてある車なら、必ず連絡を取り合うのに必要だからだ。  しばらく待合室で考えると、彼がトイレから出てくるのを発見してしまった。女の部屋に行くのだから、身支度を整えていたに違いない。私は刀剣乱舞のように狂喜乱舞したかったが、じっと暗殺者のように彼の動向を伺った。彼の狂気を抑える凶器を持ちながら、じっと……。  彼が部屋に入るのを確認する。どうやらワンランク上の鶴の間らしい。なるほど男もきちんと釣れる部屋なようだ。
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