第1章

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 夢に向かい何度も立ち上がる彼女はもういくじなしではない。 「うん、次は一般の人の前で歌うよ」 「おお、そいつはいいな。行きてえな」  俺はそういいながら右足を眺めた。この足では福岡まで行くのは難しい。嫁が運転できないからだ。 「審査は来週だから骨折していたら無理でしょ。また録音したやつ、送るから聴いてね。早く足治してね」 「おお、ありがとう。待っとくぞ」  俺はそういって電話を切った。  娘が人前で歌う、それだけでこんなに心が躍るのはなぜだろう。自分自身が歌うわけではないのに、自分が歌うよりも100倍、嬉しい。密かに俺の携帯電話の着信は娘の声にしてあるが、今の所、嫁以外気づいていない。  ……おお、すげえいい曲じゃねえか。  俺は彼女が送ってきた曲を聴いて夢中になった。実際に現場で聴いてみたい思いに駆られる。  ……だが、今のままじゃ行けないな。  俺は再び自分の足を見て落ち込んだ。この怪我さえなければ娘のオーディションを見に行けたかもしれない。  ……いやいや、それよりも今は自分の休みを満喫しなければ、もったいない。
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