第1章

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「そんな状態で漫画なんか探すかっ。右足の小指だけじゃ」俺は思いっきり突っ込んだ。彼の淡々としたぼけを敢えて元気よく突っ込む。何だか昔の店の雰囲気を思い出すようだ。 「元気じゃないですか、風邪だとも聞いてましたけど」 「ああ、久しぶりの休みを満喫しようと思って羽を伸ばしとる所じゃ」 「そうでしたか。そうそう、聞いて下さいよ。オレ、新しい二号店出すことになったんです」 「おお、そうけ。そりゃええこっちゃ」俺は宮崎弁丸出しで答えた。「お前の明太子カルボナーラ旨かったもんなぁ。レシピが一緒でもお前のはちょっと違ったんよなぁ」 「そういって貰えると嬉しいです」そういいながら彼の周りが騒がしくなる。「あ、すいません。仕事に戻ります。また連絡下さいね」 「ああ……またな」  俺は電話を切って再び落ち込んだ。彼は仕事に集中している時、必ず方言を出さずに淡々とやっていたことを思い出したからだ。休みだといって喜んでいる自分が情けない。  ……あいつの飯、食いたいな。  俺は彼が作るカルボナーラを想像した。彼の料理は丁寧で非常に緻密に作られていた。シンプルなものほど料理人の個性が味に出るのだ。それがひどく懐かしい。
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