第1章

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 その中にバイトの大学生がいたのを思い出した。そうだ、こいつから漫画を譲り受けたのだ。その後、彼はちょくちょく店に遊びにきているため、彼が今、花屋をしているということも知っている。  彼に電話を掛けると、すぐに繋がった。 「お久しぶりです、オーナー。どうしました?」 「元気しちょるか? 実はな……」俺は話を大げさに盛ることにした。「骨折してな……今、動けん状態なんじゃ」 「ええ、知ってますよ。右足の小指を原付に巻き込まれたんでしょう」 「え? 何でしっとると?」 「ああ、いえ、そんな気がしただけです。テレパシーです」  ……そんなわけあるか。  俺はそう思いながらこいつが今、福岡にいることを思い出した。飲み屋のバイトが始まるまで娘の世話をしてくれていたのだ。だから娘と定期的に連絡を取っているのかもしれない。  ……いつの間に親密になったんや、このロリコン野郎が。 「それはいいんやけどな、めぞん一刻という漫画あったやろ、あれの十巻がないんやが、お前知らんか?」 「ああ、十巻ならこの間、おかみさんが……」そういって彼は言葉を濁した。「いえ、知らないですね。そういえばオーナー、僕、東京の花屋に行くんです」
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