点滴

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 一通りの検査を終え、帰り支度のために病室へ戻ると、隣のベッドが片づけられようとしている最中だった。  作業途中の人に聞くと、俺が検査をしている間にお隣さんの容態が急変し、亡くなったということだった。  その際に、お喋り好きの清掃員さんが教えてくれたこと。 「こちらの患者さん、亡くなった時、顔が真緑色になってたそうですよ。そんな症状が出るって、いったいどんな病状だったんでしょうね」  真緑という言葉が俺の意識に引っかかる。  昨日、点滴の中に見えていた緑色の雫が、一瞬で脳内に甦ったからだ。  この人、あるいは病院の誰かに昨日のことを話すべきだろうか。しかし見間違いの可能性もある。  結局誰にも何も言わず、俺は病院を後にした。  以来、幸いにも、医者の世話になるようなことはなく、病院とも点滴とも無縁の暮らしを送っている。  けれど、もし今度病院に行く機会が巡ってきたとして、その折に、緑の雫が落ちる点滴をしている人を見かけたら、その時には、見間違いだとしても構わないから、それを訴えてみようと思っている。 点滴…完
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