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月明かりに照らされて柔らかそうなブラウンの髪が艶を持った。
“ふにゃり”笑顔に柔らかくつややかな髪…。
かけられたパーカーを手でギュッと握りしめる。
いい…よね。名前くらい聞いたって。
次に会った時に上着を返さなきゃいけないんだから。
「あ、あの…」
「ん~?」
「な、名前…聞いてもいいですか?」
「俺?佐々木貴弘。」
「わ、私は…雪です。神崎雪。」
「そっか、雪ちゃん。風邪ひくなよ…んくしゅっ!」
鼻をすすりながら腕を組み、また背中を丸める佐々木さん。私よりもだいぶ背が高そうなのに、目線が丁度同じ位になっている。
「あ、あの…やっぱり、今返します。」
「へーき。雪ちゃんにありがとうだから、使って?」
首を傾げて瞬きをすると、またふにゃりとした柔らかい笑顔を向けられた。
「“誕生日の夜に、一緒にいてくれてありがとう。”」
誕生日…!
「お、おめでとうございます!」
興奮気味に発した言葉はくふふと笑う佐々木さんの声と一緒に秋の風に吹かれた。
佐々木さんて何歳なんだろう。落ち着きぶりからして、凄く上にも見えるけど、ロンTにジーパンなんて格好で、若くも見える。
「あの…何歳になったんですか?」
「内緒。おじさんだから。」
あ、また…”ふにゃり”と笑ってる。
「雪ちゃん、そろそろ帰んない?さみーよ…ここ。」
「は、はい。」
「送る」と言われて一度はお断りしたけれど、そんな私をただ「へーき、へーき」と結局送ってくれた佐々木さん。
「…ここ?」
病院を見上げた反応が何となく恐かった。
…さすがに夜あんな所に居るのは入院患者としてはあるまじきだから、脱走した人だってバレるよね。
俯いて上着を握りしめたら頭に掌が乗って感じた暖かさ。
「悪い子やの~。」
「次はちゃんと許可貰える時間に散歩な?」と変わらずふにゃりな笑顔の佐々木さんに鼻の奥がツンとした。
ああ…私、また佐々木さんに会いたい。
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