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出かけようとしてる雪の顔がいつもより赤い気がして「出かけんの?」と声をかけた。
「うん」と嬉しそうに笑っている雪はどことなく覇気が薄い気がして、起こった胸騒ぎ。
足取りも普通だし、端から見たら元気だと思う微妙な違和感。
不思議な事なんだけど、俺にはわかる。
今までも、倒れる寸前で病院に連れて行ってたのは俺だった。
症状が出る前に何となく感じ取れたから。
だけど、あの人に会いに行く今日、多分、本人に『行くな』と言っても無理だよね…。
あの猫背男といちゃついてる所なんて別に見たくないけど仕方ない。
散々悩んだあげく数ヶ月ぶりに河原まで後を付けて行った。
◇
久しぶりに目の当たりにした光景。
変わらず、嬉しそうな雪とそれを見る、あいつの優しい眼差しにギュッとシャツの胸元を握りしめる。
俺…一年経っても同じかよ。
目の前で楽しそうに笑う二人と俺の間に冷たい風が吹き上げた。
…帰ろ。
よく考えたら、ここから病院も近いんだし、そんなに心配する事もなかったんだよな、あいつが付いているんだし…。
そう心の中で言い訳をして二人に踵を返した途端だった。
目の前がグラリと歪んで一瞬真っ暗になる。
「っ!」
まさか!
「雪ちゃん!!」
振り返った時はもう、必死に叫ぶ猫背男の腕の中に蒼白の雪が倒れ込んでいた。
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