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いつものように娘と二人で夕食を終えた。
特に会話がたくさんあるわけでも、全く話さないわけでもないけれど、今夜は何となく静かな食卓だった。
リビングにあるテレビから漏れる音が、はっきり聞き取れないような音量だったからなのかもしれない。
「ごちそうさま」
手を合わせて食器を片手に立ち上がると、娘が顔を上げた。
「ねえ、母さん」
「んー?」
「……みんなで一つのことをするって、難しいもんだね」
シンクに食器を置いて振り返った。
娘は真剣な面持ちで、最後の楽しみに残していたナスを眺めている。
「何かあった?」
他愛ない話はよくするけれど、悩みを吐露するのは珍しい。
娘は意を決したようにナスを口に運んで、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
食器を受け取りながら、娘の言葉を待った。
ここで話が終わるなら単なるぼやきだろうけど、吐き出したいことがあるのならきっと続きがあるだろう。
「ねえ、プリン、食べちゃう?」
ダイエットするからと、大好きなプリンをずっと我慢しているのは知っているけれど、気持ちがくさくさしているときくらい、自分を慰めてもいいでしょう?
「……食べる」
よほど思うことがあるのだろう。
憮然とした娘の声に表情が緩んでしまったから、ばれないように背を向けて冷蔵庫を開けた。
プリンを大事に大事に食べながら、娘は言葉を紡ぎだした。
近いうちに行われる文化祭の、クラスの催し物をどうするかで揉めているらしい。
与えられるものをこなせばよかった小中学生時代と違って、好きなように催し物の企画をたてられる反面、予算や機材の調達など簡単にはいかない現実に直面して、なかなか纏まらず苦労しているようだ。
「たくさん人がいれば、思いもそれと同じ数あるからね。
なかなか一つには纏まらないね」
「うん」
「とりあえず……どこに向けて、なのかをハッキリさせたらいいんじゃないかな」
収益か、達成感か、面白さか。
そこに辿り着くまでにも紆余曲折あろうが、それが決まらないことには同じ方向は向けないのだから。
「ふふ、懐かしいな。高校の文化祭、思い出しちゃった」
「やっぱ揉めた?」
「揉めた揉めた。それどころか崩壊の危機」
娘がスプーンを置いた。
興味津々な娘の顔を見ながら、私は記憶の蓋を久々に開けた。
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