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「こんなんやってらんねえっ!!!」
絶叫と共に、力任せに掴まれ、打ち捨てられた衣装がビビッと嫌な音を立てた。
一瞬の出来事なのに、床を目掛けて叩きつけられた薄い布地すべてが着地するのには、少し時間がかかった。
最後のひとひらが既に横たわるラメの入った布に重なるようにふわりと着地するのと、喉の奥がキリキリと軋み始めたのは同時だった。
「何てことすんのよっ!!!!」
さっきの声に負けない絶叫が教室に響いた。
ヒーロー役の志田くんと演出の諏訪さんが、机を下げ広くなった教壇の前で睨み合っている。
「毎日毎日いい加減にしろよ、好き放題言いやがって。
俺は降りるっ!!」
「何寝ぼけたこと言ってんのよ、文化祭しあさってなんだよ?」
「知るかっ、出来ないもんは出来ないっ!!」
主役の沖野さんが今にも泣きそうな顔で志田くんを見つめていた。
志田くんはちらっと私を見て、荒々しく教室を出て行く。
その顔は重圧や板挟みや、容赦なく浴びせられる要求に歪んでいた。
「俺も降りる」
「俺も」
「大体模擬店やってりゃよかったんだよ。
なんで俺らだけ演劇なんかすんの?」
演劇という企画に最初から乗り気ではなかった男子生徒から不満が漏れ始める。
「なんで今になって……文化祭まで後三日じゃん、それくらい協力してくれたっていいじゃんっ」
諏訪さんの声が震え始めた。
それを見た男子生徒の一部が、吐き捨てるように舌打ちをしながら教室を出ていく。
残ったのは教室の後ろで小道具を作成していた数人と、衣装チェックをしていた私たちと、その他のキャストたち。
悔しさに肩を震わせる諏訪さんの元にみんなが駆け寄った。
口々に彼女を慰める様子を眺めながら、私は立ち尽くすしか出来なかった。
……泣くな、泣くなっ
頭の中で何度も唱える。
泣いてもどうにもならない。
志田くんの気持ちも、諏訪さんの気持ちも、沖野さんの気持ちも、全部解るだけに凄く心が痛かった。
同時に自分のもやもやも、胸の中で荒れ狂っていた。
「今日はみんな帰ろう。毎日で疲れてるんだよ。
明日また頑張ろうよ。
私も衣装直してくるから」
床に落ちた服を拾い上げながら声を絞り出した。
前日に仕上がったばかりの衣装だったのに。
山の王子をイメージしたそれは、肩と脇の部分が大きく裂けていた。
王子なのに、着るものがツギハギ……
破れたことよりそっちのほうが悲しかった。
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