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翌日、事態はさらに悪化した。
別部屋で作業していた大道具担当の数名が昨日の事態を聞き付け、自分たちの鬱憤を晴らすべく、完成していた背景や建物の柱を破壊してしまったのだ。
惨状を見た大半の生徒は唖然と立ち尽くし、諏訪さんは泣き崩れた。
流石に乗り気でなかった人たちの中にも「それはやりすぎだろう」と非難する者も出始めた。
その日の放課後は緊急クラス会議になった。
泣いても嘆いても事態は動かない。
みんなで修繕するしかない。
幸い六時限目が担任の授業だったので、時間をもらってみんなが作業に当たった。
破壊した者も、嫌々だった者も、無言で作業に没頭した。
きっかけを作ってしまった志田くんは、作業の途中で「ちょっと外す」と言い残してふらりと居なくなった。
三十分もした頃、戻ってきた彼の両手にはビニール袋が下がっていた。
「休憩しよう」
時刻は20時を回っていた。
担任に許可を得ているとはいえ、遅い時間だった。
「なんでプリン?」
一人が真顔で呟いた。
志田くんが配りながら答える。
「疲れたときは甘いもんだろ」
受け取った男子が聞き返す。
「で、スプーンは?」
「あ……」
志田くんが一瞬固まった後、呟いた。
「直接口にプッチンすればいいじゃん」
「それはやだ!!」
ブーイングが沸き起こる中、
「あっ、家庭科室から借りようよ!!」
一人の女子生徒が叫び、数人が駆け出していった。
スプーンを人数分取ってきた女子生徒がみんなに配り、つかの間の休憩を取る。
必死だった数時間の緊張感が取れ、教室は穏やかな空気に染まった。
泣いた者、怒った者、破壊された物、沢山のわだかまりはあった。
それでも自我を一旦脇に置いて、一つのものに向かうとき、誰もが力を発揮するのだと、修繕された大道具を見回して思った。
決して綺麗ではなかった。
色が乗らなかったガムテープが貼り付いた柱。
大きくシワのよった背景。
だけどそれは、色々な葛藤を乗り越えた私たちの最高の作品だった。
何とか目処がついたとき、志田くんが諏訪さんと沖野さんを連れだって教室を出た。
きっとあのシーンのことを話すのだろう。
あの案が採用されるのは嫌だけど、それでもそれが一番の形だというのなら、今回は諦めよう。
志田くんがくれたプリンを飲み込みながら、固く目を閉じた。
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