最高の笑顔へ

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    ********** 「で、どうなったの?そのシーンは」 娘が顔色を窺うように聞いてきた。 「却下になったよ。 志田くんがやらないって言ったのもあるし、沖野さんが謝ってきたのもあってね。 目の前であれだけ拒否されたら、流石に脈なしって気付いたんでしょう」 紅茶を口にして、ほっと息を吐き出した。 あの後、若干風当たりが強かったけど、それも今では痛みを伴わない思い出だ。 「舞台はどうだった?」 「ふふっ、残念ながら大成功ではなかったね」 思い出しても笑える。 音響担当がシリアスなシーンで全然別の効果音をかけたり。 端役の生徒が本番の緊張をなめていたせいで、台詞が飛んだり。 妙な間や変な音は入ったものの、止まることなく芝居は進み、なんとか形にはなった。 諏訪さんは出来には納得していなかったようだけど、緞帳が降りたときのほっとした表情には、満足感が漂っていた。 最後は誰もが笑顔だったのを覚えている。 何はともあれ、あれは私たちにとって最高のステージだった。 「揉めたし、めちゃくちゃにもなったけど。 でもね、絶対取り戻せるから。 一杯辛くても、最後にはみんなで笑えるよ。 マンパワーってすごいんだから」 娘が最後の一口を口に入れ、スプーンでカラメルをこ削ぎとっている。 「母さんの青春なのね、プリン」 「そうかもね。 確かにあの時からよくプリン食べるようになったなあ」 ようやくカラメルを諦めた娘がニヤリと笑った。 「ねーねー、志田くんってそんなに格好よかったの?」 「よかったよー。 文化祭のあと、ファンが増えたっぽい」 「で、志田くんとはどうなったの?」 娘のニヤニヤが止まらない。 「んー……それは」 あんまり突っ込まれたくなくて、ぼんやり誤魔化す。 玄関の鍵が開く音がした。 「あ、お父さん帰ってきた」 呟くと、娘が残念そうな顔をする。 「えー、志田くんの話したかったのに。 あ、父さんって同級生だよね? 志田くん知ってるかな」 期待に胸を膨らませて、珍しく娘が玄関に向かっていった。 ほとんどカラメルが残っていないプリンカップをシンクに下げる。 夫の夕食を並べ、味噌汁を暖め直しながら、私も笑みを浮かべた。 志田くんはね、かっこよかったよ。 家庭の事情が色々あって荒れた時期もあったけど、ずっと優しかったよ。 今は……ちょっとお腹も出てきたし、白髪も増えたけどね。
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