飛び魚の三郎

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その男はスリの常習犯として警察の間で有名だった。名を三郎という。またの名を『飛び魚の三郎』 人混みを飛び魚が海面を飛んで泳ぐかの如く素早く移動し、無駄な動き一つ見せず、獲物から財布を抜き取りその場を去る。財布をすられた側はその事に気付かない。まさに神業と言えた。 その日も三郎は一仕事する為、朝の満員電車に乗り、狙いを定めた獲物に近づきズボンのポケットから財布を抜き取った。全てがいつも通りだった。失敗はしない。今まで上手くやってきたのだ。三郎は油断していた。注意力が散漫になっていたのだ。財布を抜き取ったその時、突然三郎の腕を誰かが掴み、そいつが言った。 「窃盗の現行犯だ!!」 三郎は捕まった。事態の把握に時間はかかったが、自分の腕にはめられた銀の腕輪を見て、捕まった事を認識した。逮捕は三郎の過信と、長く三郎をマークしていた警察の努力と執念の結果だったと言える。 捕まった三郎へ裁判所が下した判決は、今までの重ねた犯行の悪質さから、実刑三年が言い渡され、三郎は刑務所へ服役する事となった。 三郎が入った刑務所に、田中という刑務官がいた。定年間近、田中と三郎は歳が近かった。やってきた三郎に田中は特に厳しく接した。それは同世代の人間として、本当に立ち直ってほしいと思う心の表れだった。初め三郎は、そんな田中を鬱陶しく思っていたが、毎度熱を持って接してくる田中に、いつしか三郎も応える様に、模範囚として刑務所生活を過ごすようになった。 三年という歳月はあっという間に過ぎ、めでたく三郎は出所の日を迎えた…。
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