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登校しようとマンションのエントランスを抜けて、学校へ向かう一直線の道路を歩き始めると、その少し先に見慣れた幼なじみの姿を発見した為、嬉しくなって駆け出した。
今日は朝から幸先が良い。
「沙織、おはよう!」
「あ、巧。おはよう」
「今日は遅いんだな。金管クラブの朝練は無いのか?」
「そうなの」
「今日久しぶりに、家に行ってもいいか?」
「え? うぅ~ん、そうだな~」
並んで歩きながら許可を求めると、普段なら即断即決の沙織が、何故か微妙に困った表情を見せた。
随分とレアな表情だ。今日は朝から色々珍しい事がある日だな。
「誰かと約束でもあるのか? それなら止めておくけど」
「ううん、そうじゃ無いんだけど……」
困らせる気は無かったから、約束があるならそっちを優先しろと言ってみたが、どうやらそういう事でも無いらしい。
本当に何だろうと首を捻っていると、何か決心した様に沙織が頷き、一人で納得した様に喋り出した。
「うん、『百聞は一見にしかず』って言うし、直に見て貰った方が早いよね」
「何だ? 部屋の中が多少散らかってても、今更だろ?」
「そう言う訳でも無いんだけど……。とにかく分かったわ。それじゃあ帰りは、昇降口で待ってて。遅くはならないと思う」
「ああ」
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