第4章 その距離に私は惑う

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10月に入って、季節はすっかり秋になった。 黒崎さんはあの日からも変わらず、時々書店に来店してくれている。 これまでと違うのは、私に気付くと来客対応をしている時以外は、必ず声をかけてくれるようになったこと。 今までも挨拶をしたり、少しだけ会話をすることはあったけど、明らかに会話の頻度も時間が長くなっている。 もちろん、私の仕事に差し支えのない程度に切り上げてくれる辺りは、抜かりのない黒崎さんらしい。 私はというと、まず黒崎さんの姿を見つけてはこっそり眺め、目が合ってしまうとその瞬間心臓が飛び跳ね、近寄ってくる黒崎さんを茫然と見つめるしかできない。 話をしていてもドキドキと高鳴る心臓は(とど)まることを知らず、いつも話し終わる頃には息すら切れそうになる。 黒崎さんの態度は少し変化したのに、私自身は何の進歩もしていない状態が続いていた。
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