第4章 その距離に私は惑う

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「安心して、何もしないから」 「っ?!」 そんな、そんなことは心配してなかった……! でも、それって何て言うか、大人な発想だ。私の緊張が如何に子どもっぽいのか分かってしまった。 「冗談だよ。ほら、時間勿体ないから乗って?」 「は、はい」 冗談って……黒崎さんも冗談言ったりするんだ。 落ち着いていて、穏和な印象が強いけど、もしかしたら少し意地悪なところもあるのかもしれない。 そんなことを考えながらも、なんとか足を動かして車に乗り込んだ。 シートは程よい柔らかさと弾力で、身体が沈み過ぎずに乗り心地がいい。 車内はとても綺麗で、無駄なものは置かれていないし、『汚くない』という言い方は明らかに黒崎さんの謙遜だ。そして、ふわりと鼻先を掠めたのは、森の中にいるような優しくて爽やかな香り。
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