第4章 その距離に私は惑う

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それから10分程走ったところにコンビニがあり、車はその駐車場に入って行った。 「おいで」 駐車を終えると、黒崎さんは運転席のドアを開けて、私の方を見て声をかけてくれた。 手招きをしながら、耳触りのいいテノールの声でそう言われてしまうと、拒否する選択肢はあっさり消えてしまう。 私が助手席から降りるのを優しい表情待ってくれ、そんな大したことのない瞬間にさえトキめく。 待たせてしまうのは申し訳なくて、つい小走りで近寄ると、またしてもクスクスと笑われてしまった。 「そんなに慌てなくてもいいよ。コンビニは逃げていかないし、余裕もって出発してるから水族館もゆっくり回れるからね」 「あ、はい。すみません」 「何も悪いことをしていないのに、謝らなくていいんだよ」 「すみま、あ……」
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