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もしかしたら係長――
過去にストーカー女につけ回されて、毎晩無言電話に悩まされ眠れない日々が続き、更には自転車のサドルが盗まれて代わりにその穴には竹ぼうきが突っ込まれてて、
「きっと盗まれた係長のサドルは、今でも女が毎晩抱いて寝てるのよ!係長を想ってペロペロしながら寝てるのよ!」
「盗まれたサドル?ペロペロ?おまえは一体どんな妄想してんだよ!」
きっとそうよ……そうに違いない。そんな風に言い寄られるうちに女が嫌いになって、ついに係長は、
「男として不能になってしまったのね!可哀想な係長!何たる悲劇!」
手にしていた三色ボールペンを握り締め、デスクを『バンッ』と叩いて立ち上がった。
一斉に私に向けられる社員たちの視線。
「勝手に人を不能にするな!今日はもう帰れ!帰って妄想小説でも書いてろ!」
係長は額に怒りマークを刻んで私を怒鳴りつけた。
―――そして昼休み。
「あ~あ、どうして私っていつもこうなんだろう。係長を怒らせるつもりなんて無いのに。寧ろ、係長に好かれたいのに。何故?何故なのよ!」
トイレの鏡に映し出されているのは、洗面台に両手を突いてガックリと肩を落とす私の姿。
「何故って……本当に分らないとしたら、あんた相当ヤバいわよ。まあ、それを見てるこっちも相当楽しんでるけどね~」
同期の凉葉が鏡越しに口紅を引きながら、落ち込む私の横で愉快そうに笑う。
実のところ、私は係長に特別な想いを寄せている。彼に惹かれたのは、高学歴でイケメンだと言う理由だけでは無い。
女だからと言って容赦をしない完璧主義も、お世辞など存在しない冷たさも、決して笑顔を見せない仏頂面も、係長に関しては全てが私のドストライク。
彼は『おまえは脳ミソがトロトロに溶けていやがる』と言って、いつの頃からか私をトロロと呼ぶけれど。彼にとって私の存在は、部下のうちの一人でしかない。
「実らない片思いは承知の上」――だけど、一度でいいから係長の笑顔が欲しい。
埋められない切なさで胸が痛む。
「どうやったらあの人に近づけるのかな……」
鏡に映る冴えない自分を見据え、掬われないため息を重ねた。
「ねえ、トロ。女として近づくのは前途多難だけど、仕事で認められたらそれが第一歩になるんじゃない?」
「仕事で?」
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