5.証拠隠滅

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編集方針を最後になって覆した瀬川は落ち込んだ。 サミット特集号の売れ行きが芳しくなかったのだ。 そんな瀬川を奈津子は居酒屋に誘った。 「僕の考えが甘かったんです。 原爆投下に対するアメリカの謝罪追及という、 当初の編集方針を貫くべきでした」 「それは違う。瀬川君の判断は正しかったのよ。 それに私達の仕事は、売れればいいなんてものじゃない」 奈津子はきっぱりと言い切り、そして話題を変えた。 「そんな事より、伊勢神宮で出会った女を撮り逃したのは 残念だわ」 「何故ですか?」 「伊勢神宮をドロンジョ・メガネで参拝する女なんて、 普通いないでしょ? そんなシャッターチャンスを逃がすようじゃ君もまだまだ」 「済みません」 「なんちゃってね。実は私も以前に撮り逃したの。 瀬川君が見かけたのとそっくりの女」 「どこでですか?」 「ホテル三日月城」 「同一人物でしょうか?」 「わからない」 店のドアが開き男が入ってきた。 「やっぱりここだと思ったよ」 満面に笑みを湛えた越智矢が席に着いた。 「ビッグ・ニュースだ」 「何かあったんですか?」 「ブルース・パークから」 越智矢はサイトにUPされたばかりの資料を取り出した。 「バナナ共和国で爆弾テロ」 1枚目は高層ビルの上層階が木っ端みじんに 破壊された写真。 そして2枚目はその説明文だった。 <ブルース・パーク、バナナ支局発、緊急電> 『現地時間午前3時、バナナ共和国で爆弾テロ。 襲われたのは世界の大富豪の裏帳簿を管理する、 大手会計事務所。爆発により焼失した書類、 通称<バナナ文書>には、アメリカ大統領候補 ハナフダ氏も名を連ねると噂されていた』 顔を上げて奈津子は越智矢に問うた。 「他社もこの情報、掴んでいるかしら?」 「まだ外電は入ってない。スクープだよ」 「瀬川君のアイデアが役に立つのね」 「その通り。明日の号の表紙はこれに差し替えた。 これで完売が狙える。さあ、乾杯だ!」 越智矢の音頭に奈津子が応じた。 「瀬川君に乾杯!」 瀬川は顔を高潮させジョッキを上げた。 「有難うございます。カンバイを祈念して、カンパイ!」
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