2.伊勢志摩ホテル

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「伊勢志摩に出張して貰いたい。人手が足りんのだ」 老舗料亭シクラメンのオーナーは仲居の先島アヤに伝えた。 「伊勢志摩、ですか?」 「店を出しているホテルがサミットの報道関係者の 宿泊先になることに決まった。開催期間中、千客万来になる」 「どちらのホテルでしょう?」 「伊勢志摩ホテル」 「アメリカの大手、スティーブンに買収された?」 「その通り」 不動産投資の失敗で経営危機に瀕した伊勢志摩ホテルが、 米国資本、スティーブンの傘下に入ったのは2013年。 この一連のホテル買収事件の一部始終を独占放映した TBXの特番に、当時日本中が釘付けとなった。 裏で糸を引いたと目される当京中央銀行は、 今日に至るも箝口令を敷いており、 主役だった銀行マンのその後の消息は今もって不明である。 「海外から特派員が大勢やってくる。接客には万全を期すよう ホテル側からお達しがあった」 「私、英語は苦手です」 「その点は心配ない。親会社のスティーブンから13ヶ国語 にたけた仲居が派遣されることになっている。 その仲居もお前と同じ重度の花粉症で、抗菌メガネを かけているそうだ。 名前はゴールディー・ジューソー、日露混血と聞いている」 「まるで東郷さん・・・」 「誰だって?」 「いえ、なんでもありません」 「サミットが終わった後はお伊勢参りでもしてくるといい。 いや、待てよ、それよりお前には伊勢湾真珠がお似合いだ。 伊勢の真珠は世界一。お小遣いをあげよう」 オーナーはいつものように金庫から束を取り出しながら ふと気がついた。 (真珠といえば、あの戦争は真珠湾攻撃で始まり、 原子爆弾で終わったのだ。 真珠の海でのサミット、その後のヒロシマ訪問。 今度のサミットは、奥が深い・・・) *****
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