2.伊勢志摩ホテル

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週刊真実、編集会議室。 サミット終了後に予定されている米国現役大統領初の 広島訪問、その報道の視座を巡り、会議は紛糾した。 「原子爆弾が戦争を早期終結に導いた事は明らかな事実です。 当時の日本政府の記録からも、ヒロシマの衝撃が、 ポツダム宣言受諾を促した事がはっきりと読み取れます。 これは核兵器使用に踏み切ったことを正当化する 米国側の主張を裏付けるものです!」 「当時の日本に戦う力など、もうどこにも残ってない事くらい アメリカは百も承知していました。核兵器を使う必要なんて、 全く無かった。あとはもう海上封鎖さえすれば、 それ以上誰も血を流すこと無く戦争は終わっていた筈です!」 「何を言ってるの。国家を上げて特攻という名の自爆テロを しかける国なんて、徹底的に叩き潰すしかないじゃない!」 「白人は有色人種を人間と思ってなかったのよ!」 焦点は、核兵器を使用したことに大統領がどう言及するか、 その一点。 「いつまでも謝罪、謝罪なんてしつこ過ぎる。 まるでどこかの嫌な国にそっくりじゃない?」 「痛みは受けた側にしか判らない。それを癒してあげるには、 どうしても謝罪が必要だって事、いつになったら気づくの?」 それまで黙っていた瀬川が口を開いた。 「上草さんの主張も、高橋さんの主張も、どちらも 正しいと思います」 一呼吸間を置き、瀬川は続けた。 「でも、正義とは何でしょうか? 真に友好的な日米関係を築くためには、 この問題を両国とも正義にそって判断すべきです。 アメリカが非人道的殺戮兵器を使用した事は正義に反します。 アメリカは核兵器を使用したという過去の過ちを素直に認め、 謝罪すべきです」 まだ若い、純真な瀬川の発言に押し黙る一同。 編集長が口を開いた。 「瀬川君。君のその若さに賭けてみようじゃないか。 ヒロシマについての編集方針は、君に一任しよう」 居並ぶ編集委員は皆その決定に驚いた。 そして、さらなる衝撃が会議室を襲った。 「伊勢志摩の取材も君が担当するんだ。 海外の報道機関とのアライアンスの件、実現してみせろ。 報道関係者の宿泊先は伊勢志摩ホテルだ」 *****
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