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そんな出来事から数ヵ月が経ち、男はそこそこの会社に就職した。そこで一人の女性と出逢う。意気投合した二人は付き合うようになり、結婚を意識するようになった。仕事では失敗の連続であったが、辞めようとは思わなかった。今では心から幸せにしたいと思える女性がいるのだ。真面目に働く男に会社も信頼をおいた。やがて男は結婚をして、二人の間に子供が産まれた。守りたい者があり、仕事に精を出す。全てが順風満帆と言えた。
しばらくの歳月が流れ、その会社である程度の役職に就いていた男の元に、いつかの死神が現れ言った。
「約束通り来てやったぞ。ではお前の命を頂くとしよう」
「やっと来てくれましたか。ずっとあなたを待っていたのです。早く僕を殺してください」
またも訳が分からない死神は「どういう事だ」と理由を聞いた。
「一見幸せそうに見えるかもしれませんが、仕事をして妻と子を養う。単調な毎日の繰り返し。こんな事がこれからもずっと続くのが耐えられない。さあ、殺してください」
「嘘をついてはいけない。どう見ても幸せそうではないか」
「僕もそれなりの立場の人間になった。そう演じているのです。ああ、なんてつまらない人生なんだ」
「ううむ、分かった…。ではまたの機会に来るとしよう」
死神は去っていった。
それから数十年後、男はとうとうその日を迎えた。男の身体を病魔が蝕(むしば)み、発見された時にはもはや手遅れの状態だった。病室のベッドに横たわる男を傍らで妻が見守っている。
そこへ死神が現れた。妻には死神の姿が見えていないようだった。死神の姿を認めた男は、弱々しい言葉で死神に言った。
「とうとう来ましたね。だけど、遅かったですね…。どのみち僕はもうすぐ死ぬ…」
「…ああ、お前はもう死ぬ」
「最後に聞いていいですか?」
「何だ?」
「僕は、あなたに殺されるのですか? それとも、病気で死ぬのですか?」
「それを知ってどうする…。お前は今、幸せか?」
死神の問いに、男は妻の方を見て、
「僕は妻に逢えてから、ずっと…幸せでした」
と答えた。そして、再び死神に視線を戻した男は、
「僕は…、あなたに嘘をついた事がありました。あなたに会った二回目の時…言った…言葉……」
そこまでを話すと、それから先、もう男の声は聞こえなかった…。死神の姿は消えていた。
人には様々な人生があり、様々な生き方がある。人生はそう捨てたものではない。
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