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「父さん、あんな連中と付き合うの、もうやめてくれよ」
ぼくは言いながら、酔ってなかなか足を進めてくれない彼を、ほとんど背負う状態で引きずって歩く。
「おまえが堅すぎるんだ。みんな冗談の分かるいいやつらだぜ」
「あんな連中、人間のクズだ! 人生捨ててるんだ!」
「人生捨ててる? それは違うぞ、楽しんでるんだ」
「快楽志向なんて動物以下だ!」
「相変わらずメチャクチャ言うなあ、おまえ」
彼がよろめくたびに、その全体重がぼくの腕にかかる。それがきつすぎてぼくの足は進まなくなる。
「しっかり歩けよ! ったく、昼間っからこんなに酔っぱらって! そんな金、うちにはないって、何度言ったら分かってくれるんだよ。いいか? あんたにはまだ働けない息子が二人いる。母さんは病気で寝てるんだ。少しは考えてくれ!」
「ちぇ、俺も人間のクズだってのか」
「ああいう連中といつまでも付き合ってたら、そのうちそうなるさ! 最近なんて、働くより酒飲んでる時間の方が長いじゃないか!」
「うっせえな! 俺はなあ、一生を有意義に生きようとしてんだ! 金のために時間と肉体を犠牲にするなんざまっぴらだ! ましてや自分を売るくらいなら死んだおうがマシだ。いいか、人生は一度きりなんだぞ!」
「だったらなんで家族なんか持ったんだよ!」
ぼくが怒鳴ると、彼は気まずそうに頭をかく。
「それはな、つまり……なりゆきだよ。本当はこんなつもりじゃなかったんだ。あいつが結婚してくれしてくれってしつこくせがみやがって……」
「この……地獄に落ちちまえ!!」
ぼくは彼を道端に放り捨て、そのまま帰ろうとした。
「けっ、地獄だあ? そんなもんあるわけないだろーが……まったく誰もかれも天国だの地獄だの、あるかないかも分からないもの信じやがって!」
彼は道端から、大声で反論してくる。ぼくが振り向くと、彼は続けて言った。
「ああ? そうだろう!? 俺はあるかないか分からない世界なんざ信じねえぞ!」
「……」
ぼくは彼のそばまで戻り、彼の顔を覗き込んだ。
「だったら……おまえが信じるものは何だ」
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