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と問う。すると彼は待ってましたとばかりに大声をあげる。
「もちろんこの世だ! 何にしろ、とりあえず、この世は確かにあるからな。ここでせいいっぱい生きてやるんだ!」
「どこがせいいっぱいだ!」
ぼくは怒鳴る。
「おまえのせいいっぱいってのは怠けて酒飲むことなのか!」
「ああ! そうだ! 悪いか! みんないつかは必ず死ぬんだ! そのときまでに、やりたいことをやりたいだけやって何が悪い! 何かできるのも生きているうちだけだ。時間は一秒だって無駄にしねえぞ。明日死んでも悔いのないように生きてやるんだ。好きなことを好きなだけやってやる!」
「この……動物以下め!!」
まだまだ言いたいことはたくさんあったが、あとの都合もある。ぼくは彼を無理矢理に背中におぶった。
最初は嫌がっていた彼も、まだ数歩も行かないうちに、ぼくの背中で高いびき。……まったくいい気なもんだ! 考える頭はあっても自分のことしか考えない。とてもじゃないが、一家を背負うに相応しい人格ではない。
彼にも彼なりの考えがあるのかもしれないが……彼の考えでは、現実的に生活していけない。生きていくためには、パンがいるのだ。
事実、うちの家族は、ぼくが働きだしてからやっと人並みの生活が送れるようになった。
「おまえを働かせなきゃならないなんて……情けない」
と、規律正しい母は深く嘆く。
こんなとき、ぼくはいつも、母の正しすぎる言い分を認めながらも、彼を弁護したがっている自分に気付いていた。
もちろん、ときどきは、彼のあまりのいい加減さに、恨みや憎しみがちらつくこともあったけれど……そのたびに、やはり彼にはぼくしかいないのだと確信してしまうのだ。町の評判の良くない、宮廷内でも嫌われ者の、どうしようもない彼だからこそ。
彼も、時折、そんなぼくの心に気付いてくれた。
「こんな俺を許してくれ……」
いつか彼は告白した。
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