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《3章》
――「本当に大切なものは失うまで気づかない」
どこで聞いた言葉だったか。誰かが俺に言ったのか、それとも誰かが言っているのを聞いたのか。あまりよく覚えていない。
ただ、ここ最近この言葉が妙に頭について離れない。
ふと思う。俺は妻が心から笑うのを見たことがあっただろうか。いつも柔らかな微笑を浮かべ時折切なげに俺を見つめる眼差しに俺は気づかぬふりをした。
俺が最後に妻の名を呼んだのはいつだっただろう。もう、思い出せない。
「さようなら」
これが妻の残した最後の言葉だった。
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