《1章》

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生まれた時から決められていた婚約者。不満なんてなかった。 実際に顔を合わせたのは数える程度しかないけれど、それでも幸せを感じるには十分だった。 定められた人生に抗う気などさらさら無かった。 もともと病弱で学校も休みがちだった私に仲の良い友人はなく、クラスメイト達のように打ち込める趣味もなかった。そんな私にとって、婚約者に想いを馳せるのは唯一の楽しみだった。 自分の婚約者はどんな人なんだろうと想像しては期待に胸を膨らませた。この人と共に過ごす未来に希望を抱いた。 高貴な家同士で子が生まれる前からあらかじめ婚約者を立てるのは、この時代珍しい話ではない。それがΩとなればなおさらだ。 社会的にΩは差別の対象となることが多いが、栄えた家に生まれたΩはこうしてある程度安定した人生が保証される。私がそうであるように。 良家に生まれ落ちたΩにあらかじめ婚約者を立てるのは、発情期の間にどこの馬とも知れない輩と子をなすのを防ぐためだ。私の父母も、そして祖父母も同じようにそうしてきた。 仲の良い彼らを見て、ずっとあこがれていた。ずっとずっと恋い焦がれていた。婚儀を挙げるその日を待ちわびた。 そのために出来ることはなんだってしてきたつもりだ。学校は休みがちだったが、勉学を怠ることはしなかった。いつかあなたを支えられるように。 花嫁修業だって、手を抜いたことはない。世界一の花嫁を競う自信がある。それくらいには腕を磨いてきた。あなたに釣り合う人になれるよう。 夜伽もΩである母に教わった。下手な娼婦や、夫に甘えるばかりの女なんかよりずっとうまくやる自信がある。 すべてがすべて、あなたのために。あなたが私の生きる意味(すべて)だった。
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