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あれから一年、鑑定の結果産まれてきた子の父親は夫では無かった。
腕の中で眠る子を見つめ、私はただただ途方にくれる。では、この子供の父親は一体誰なのか。
実家に離婚届が届いた時、両親は酷く慌てていた。
子持ちのΩが再婚を望めるケースは少ない。きっと私はこれから先ずっと、誰にも愛されることなく死んで行くのだろう。
ふいに腕の中で子がぐずる。それをあやしながら、私はそっと微笑んだ。
この子がいる限り、私は一人じゃない。その事実は不思議と私に力を与えた。
父親が誰かなんて、もうどうでもいい。この子は私の子だ。私が産み、立派に育ててみせる。
以前よりずっと私は自由だった。
夫と暮らしていたあの頃より穏やかな時間が流れて行く。例え愛する人が隣にいなくても、人は幸せを感じられるのだと初めて知った。
私が一人で子を育てていく事を両親に話すと、彼らは快く許してくれた。それどころか、一人で子を育てるのは大変だろうからと実家に住むことを許してくれた。
「その子は貴方の子なのだから、貴方がしっかりと育てなさい」
母の言葉に私は大きく頷いた。母はやはり私よりずっと強い人だと改めて実感した。
でもね、ふいに続いた母の言葉に私はそっと顔をあげれば、そこには優しい母親の顔があった。
「貴方は私の子よ。辛い時は頼りなさい」
その優しく、頼もしい一言に涙が止まらなかった。
その数ヶ月後、意外な訪問者が私の実家を訪れた。
→《3章》に続く
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