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「マスター、朝食をお持ちしました。失礼してもよろしいでしょうか?」
扉の向こうから聞こえた澄んだ声により、本の世界から現世へと引き戻される。
ずっと腰掛けて活字に集中していた所為か、肩こりと目の疲れが一気に襲い掛かってきた。
一時的なものだとは思うが、書斎机に肘をついて目を瞑り、目頭を摘むように右手で抑えてから返事をする。
「どうぞ、入ってくれ」
ゆっくりとドアノブが捻られ、最低限必要なだけの扉が開かれると一礼してからメイド服の女性が入室する。
「失礼しま……って、まぁーすぅーたぁー!! 朝なのにカーテンも開けないで灯りがついてるって事はまた徹夜したんですね!」
六畳しかない狭い書斎部屋を満たすのに十分な程響いた甲高い声。しまった、今日という日に限って朝食配膳の担当がアイツだとは。
「あー、悪かったって」
「ちゃんと目を見て言ってくださいっ」
参ったな。目頭を抑えていた右手を解放し、目を開く。肩から首にかけて軽く首をぐるりと回した後に言われるがまま顔と視線を向けてやった。
白い艶めきが映える腰まで伸びた長い黒髪。紫水晶のような瞳は今まさに俺の心情を読み取ろうとしているかのようで、いつもは可憐な筈の顔付きがご立腹の為、頬ふっくらで台無しだ。
「どうも、すいませんでしった」
「声のイントネーションと感情反応で明らかに反省している人では無いと、手に取るように分かるんですが!」
確か170センチぴったりの俺を基準にすれば、大体胸板より下辺りなので、正味160センチ位だろうか。体格のプロポーションに関しては言う事が無いと思うのだが、彼女曰く、胸がコンプレックスとか言ってたような。まあ、そんな事はどうでもいい。
大事なのは見た目が普通のヒトとそう変わり無いが、彼女【リツカ】は人型ロボットという事である。声のイントネーションやら感情がナンタラとか言ってたのが、ロボットらしさを物語るのでは無いだろうか。
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