ファンシーな彼

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久我くんに買ってもらったのは店で1番安いローファーだ。 履いていたローファーは下取りサービスで処分できたから、久我くんはご機嫌な様子。 「どうせだから、3階の店に寄ってもいいかな?」 さりげない口調で切り出した久我くんは、期待で目をキラキラさせている。 ”3階の店”で、どの店かわかってしまった私は頷いた。 駅ビルの上りエスカレーターに乗った私たちは、私が上の段だから目線が同じ高さで落ち着かない。 背中を見せるのも変なので横向きに立って久我くんを見ると、長いまつ毛のクッキリ二重の目が私を捉えた。 「もうすぐ指原さんの誕生日だろ? Gを退治してくれたお礼に何かプレゼントするよ」 「ローファー買ってくれたじゃん」 ただの同級生に買ってもらうにしては高すぎる品物だ。 「あれは已むに已まれず買ったものだから。誕生日プレゼントはもっとかわいいものがいい」 やっぱり。 こいつは見かけによらず”かわいいもの”好きなのだ。 久我くんがまっすぐ向かったのはファンシーショップ。 平日の夜8時ともなると、店の中には数人の客しかいない。 1週間前、ここで久我くんを見かけた時もそうだった。 この手の店には滅多に入らない私が、野乃花の誕プレを探しにたまたま入ったら、同級生の久我くんがいてビックリした。 しかも、彼はクマのぬいぐるみを抱いて、優しく撫でていた。 その蕩けそうな表情は学校で見る久我くんとは全然違った。 思わず商品棚に身を隠した私はこっそり彼の様子を窺った。 彼女へのプレゼント? いや。野乃花情報では確か彼はフリーだったはず。 じゃあ、好きな子へのプレゼント? もしかして相手は野乃花だったりして。 「プレゼントですか?」 レジの店員の問いかけに久我くんは首を横に振った。 「自宅用です」 驚いて立ち上がった私と目が合った久我くんの驚愕の顔は今でも忘れられない。 「こいつが俺を呼んでたんだ」 久我くんがクマのぬいぐるみを指さしてそう説明をした時、私は彼の裏の顔を知ってしまったことを確信した。
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