第1章

2/7
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「いやー、ごめんごめん、昨日は迷惑かけたんだって?」 青白い顔をしながら、開口一番に宗像は言った。 見るからにひどい二日酔いだ。にもかかわらず笑顔を振りまいている姿は痛々しい。 「見事だな」慎一郎はぼそりと言った。 「え、何の話」宗像はとぼけたが、笑った顔が凍りつく。 「具合悪いなら、無理に来なくても良かろう」 「そっちの方がムリ」うーっと頭を抱え、宗像は呻く。 「奥さんがやけに親切で、かえって怖い。ちくりちくりと言われる一言が痛すぎてもうダメ。二日酔いで寝てたいなんて言おうものなら、どんな目にあうことやら」 ぶるぶると身震いをする。 「自業自得という奴だな」 「それがわかんないんだよ、俺、何かしたか?」 慎一郎は目をぱちくりと見開いた。 友人の表情から、「したんだ……」と宗像は肩を落とした。 「覚えてないのか」 「だから、何? 頼む、教えてくれ」 「もう深酒はしないことだ」 「しないよ、悪酔いはするし、もう若くないんだって実感した。だから、何したか教えてくれよう。でないと仕事に集中できないー!!」 痛むであろう頭を抱えて、宗像は慎一郎に詰め寄る。 知ったらもっと集中できないだろうに。 必死の形相の宗像に、慰めにもならない答えを与える。 「投げ飛ばされたと言っていたな」 「誰が? 俺が?」 「秋良に関わることらしいが」 宗像の青白い顔に苦虫を噛み潰した表情が加わる。 「淑女の名誉に関わることだから、俺の口からは言えない」 「なら、私も協力できないな」 「あ、お前、そりゃないだろ、性格悪くなったなーっ!!」 「お互い様だ」 「ちえーっ、何だよう! 俺は忘れちまいたいことなんだ!」と吠えて、宗像はぽつぽつと語り始めた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!