第1章

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宗像がまだ若く、大学院を終えて研究者の道を歩み始めた頃だ。 バックパックひとつで貧乏世界一周旅行へ出た。旅行気分半分、もう半分は自分を受け入れてくれる先を探す求職を兼ねていた。 取れる限りのコネと紹介状を携え、回れる限りの大学を回った。けんもほろろに断られること数十回、上手く訪問までこぎ着けてもただの茶飲み話で終わることだらけ。自分探しにもならないみじめなリクルート行脚だった。 そんな中、辛うじて話を聞いてくれる先を見つけた。即答はされなかったが「一年後に来たまえ」と言われた。 一年はあくまでも猶予期間。彼はすぐさま帰国した。一年後に手ぶらで再訪するわけにはいかない、然るべき手土産を持って行きたかった。元から熱心に勉学する方だった宗像は、は今まで以上に励んだ。 約束の一年後に再訪し、見事職を得る足がかりを掴んだ。 それは日本以上に厳しい海外での生活の幕開けを意味したが、先が見えないリクルート行脚の日々と比べれば、白黒つきやすい分落ち込みもしたが励みにもなった。 何とか業績を上げた彼は、肩書きを獲得した時、久方ぶりに日本に帰国した。 その時、機内で秋良に会った。 まだ学生だった頃以来の再会だったから、最初は驚いた。まさかあの秋良ちゃんか? と。 彼女の姓は珍しい。人違いのはずがない。 話しかけてみた。 最初、きょとんとした顔をしていた彼女も、慎一郎の名を出すと、ぱっと顔を輝かせた。 妬けた。 彼女がまだ学生だった頃に、慎一郎と一緒のところを見かけて、岡惚れしていた当時を思い出して懐かしくなった。
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