第1章

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「それは――災難なことだったな」 なるべく神妙そうな声で応じてみたものの、笑い声を乗せないようにするのに苦労した。 「さあ、俺の方は包み隠さず告白したんだから! お前も約束を果たせ」 「せっかくだが、今の話を聞いたら、これ以上、お前に恥はかかせたくないな」 「――恥ずかしいこと、したのか?」 「できれば、私の胸の内に収めておきたい」 「でも、カミさんも、秋良ちゃんも知ってるんだよ、な、な?」 また人のカミさんを名前で呼ぶかね。 こいつの細君をちゃん付けで呼んだら、どんな顔をすることだろう。 そんなことより、真実を告げる方が、こいつには堪えるか。 なので、あっさりと要望に応えてやった。 「自分は君が好きだった、と秋良に言った」 「うううう、そ、それで?」 「君とは結婚――」 「うわあああ、もういい、もういい!!」 宗像は悶絶する。 「カミさんにも聞かれたなんて、最悪だよ、もう……」 どうしよう、何か買って帰った方がいいかなあ、と40男が悩む姿は滑稽でもあり、哀れだ。 宗像は、君とは結婚できないと言ったんだが、彼は勘違いをしている。 まあ、勝手に誤解しているのだから、そのままでいいだろう。 折を見て本当のことを伝えてやってもいい。 今でなくても、気が向いた時に。 「お前は自分の仕事を片付けたまえ」 「そうする……」 これでしばらくはおとなしいだろう。 静かな宗像は彼らしくないのだが、少しばかり意地悪してもバチは当たるまい。 その日は終日、五月雨式にキーボードを打つ宗像の打鍵が、侘びしく室内に響いていた。 帰り際、彼はつぶやくともなく口にした。
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