第1章

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「三浦女史、どうするんだろうな」 「ふむ」 「あの様子だと、多分、博士とはそれなりの関係なんだろ、武さんの言いぶりだと採用は黄信号みたいだし」 「三浦君なら何とかできるだろう」 今までもそうだった、きっと今後も生き方は変えられないだろう。 三浦冴子とはそういう女性だ。 「息子もいる、彼女は――もうひとりではないんだから」 「それにしても不思議だよなあ、三浦はいつ博士と出会ったんだろうな? まるで接点なさそうなのに。お前知ってる?」 「私の方こそ聞きたい」 ――忘れちゃったんだ。 三浦が投げた一言が気にかかる。 忘れるも何も、覚えがないことを記憶してるわけがない。 自分は何をした? まだ彼女と接点を持っていた若い頃。 おそらく――二十代の頃だ。 思い出せない。 目を向けた先には、シャチのでっかいぬいぐるみが笑っている。柴田麗が持ち込んでからそのまま放置されていた。 喉に刺さった小骨のように、彼の中に痕跡を残して、三浦が日本を後にしたと知らされたのは、それから少し経ってからのこと。 いつのまにかシャチのぬいぐるみは消えていた。 代わりに、メッセージカードが入った封筒が置かれていた。 ダディ、バイバイ、とカタカナで書かれていた。 幼さの残る文字だった。
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