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「三浦女史、どうするんだろうな」
「ふむ」
「あの様子だと、多分、博士とはそれなりの関係なんだろ、武さんの言いぶりだと採用は黄信号みたいだし」
「三浦君なら何とかできるだろう」
今までもそうだった、きっと今後も生き方は変えられないだろう。
三浦冴子とはそういう女性だ。
「息子もいる、彼女は――もうひとりではないんだから」
「それにしても不思議だよなあ、三浦はいつ博士と出会ったんだろうな? まるで接点なさそうなのに。お前知ってる?」
「私の方こそ聞きたい」
――忘れちゃったんだ。
三浦が投げた一言が気にかかる。
忘れるも何も、覚えがないことを記憶してるわけがない。
自分は何をした? まだ彼女と接点を持っていた若い頃。
おそらく――二十代の頃だ。
思い出せない。
目を向けた先には、シャチのでっかいぬいぐるみが笑っている。柴田麗が持ち込んでからそのまま放置されていた。
喉に刺さった小骨のように、彼の中に痕跡を残して、三浦が日本を後にしたと知らされたのは、それから少し経ってからのこと。
いつのまにかシャチのぬいぐるみは消えていた。
代わりに、メッセージカードが入った封筒が置かれていた。
ダディ、バイバイ、とカタカナで書かれていた。
幼さの残る文字だった。
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