0人が本棚に入れています
本棚に追加
明らかに俺は動揺していた。
「はっ、何でこんな物が!?」
足元に転がった物を見て俺は慌てふためいた。
「あなた……だったの?」
茫然としたような、失望したような、そして死刑の宣告を告げるような声に俺の心臓は縮み上がった。
「いや、違うんだ。これは……」
顔を上げて必死に弁明しようとしたが、言葉が上手く出なかった。
「あなたなのね……」
声の主の少女はすでに俺の目の前に迫っていた。そしてその美しい瞳を細めて冷たく俺を見下ろしていた。いつの間にか少女は棒状の何かを手にしていた。
「間違いない!」
躊躇わずに棒状のそれは振り下ろされた。俺は避ける事が出来なかった。目の前が真っ白になった……。
「そこで目が覚めたんだ」
昼休み、今朝見た夢を話す伊藤周平は学校の売店で購入した焼きそばパンを手にしながらも食が進まない様子だった。
「ふうん。で、その女の子って知ってる子なのか?」
話を聞きながら影山浩典は家から持ってきた弁当を淡々と食べていた。
「いや、知らない子だった。だけどストレートのセミロングの、綺麗な髪をした、とにかく綺麗な子だったよ」
天然パーマである事にコンプレックスでも持っているのかやけに髪を強調して周平はそう話したが、言いながら顔がにやけてきているのに自分で気が付いた。
「ふうん、良かったじゃないか。お前の好みのタイプなんだよな?」
賢そうに見える眼鏡の縁を指で直しながらからかうように浩典が言うと
「おいおい、冗談じゃないぞ。棒のような物で殴られたんだぞ!」
思わず周平は声を荒らげて立ち上がった。
ハッとして気まずそうに周りを見渡すと、近くにいた他の数人の生徒が怪訝そうにこちらを見ていた。だが周平がそっと座って大人しくしていると、やがては誰も気にしなくなってそれぞれが元の会話に戻っていった。
「……それってやっぱり、これから起こる夢ってやつなのか?」
声のトーンを落として、神妙な顔で浩典は周平に尋ねた。
「……ああ、そうなんだ」
最初のコメントを投稿しよう!