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――主に、魔物側の避難と誘導、それから、牽制だ。
これは希少種の保護という目的もある為、他の奴には頼めない。魔物へ言う事を聞かせられるのは現状オレだけだし、知能が無い奴らですら誘導が可能なのもオレだけなのだ。
そんな魔物側の動きを伝えると、突然ドリトが深々と頭を下げて来た。
「何から何まですまんな。」
オレは思わず手で制していた。
「よしてくれ。ドリトに非は無いんだ。」
実際、ドリトは何も悪く無い。強いて言うなら、遠い場所にある国が滅亡したからと、根拠の無い不安で暴走してしまうような軟弱者が悪いだけだろう。
この為に、オレはドリトを止めたのだが、
「それでも、人間を代表させて言わせてくれ。本当に、すまない。」
どこまでも真摯に、頭を下げられてしまった。
オレはそっと溜息を漏らす。
「――ドリトは変に真面目過ぎだ。」
その後、いくらオレが言葉を重ねても頭を下げ続ける彼に、ある意味一番の難関に当たったような気がして、オレは気が滅入るようだった。
――程なくして。
渡したポーションの効果のおかげか、すっかり元気を取り戻したドリトが、以前オレが教えた≪ボックス≫を一発で成功させていた。
オレはそれに「おお」と感嘆の声を漏らす。
「上達したな。」
「ああ、あれから、暇を見ては何度も使っていたからな。」
ドリトはそう言って、機嫌良く部屋の中のアイテムを収納していく。
それを見ながら、オレはフードを被り直していた。
大分、空気の質が悪くなってきていたのだ。ここいらで、解除しておくべきだろう。何より、これ以上は結界を維持してまで話す事もない。
「思ったよりも、時間が取れたな。」
ドリトへの交渉が難航するとは思っていなかったが、それでも予定より早く終わった。これなら、今日の行程では、幾らかの余裕が出来そうだ。
そう思いつつも、ドリトがアイテムの全てを収納し終えてすぐに。
パチリッと。
オレは指を一つ慣らして、張り巡らせていた結界を解き、窓を開けていた。
穏やかな風が、空気の篭っていた室内を浄化していく。
余りのんびりとはしていられないが、少し息が詰まる思いもしていたので、ほぅっと息が漏れる。
最後の役者も揃って、本当に良かった。
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