第11章 犬は迂闊に拾わない

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少年のようにさっぱりカットされた髪とルーズなTシャツ、ジーンズの着こなしにも関わらず、俺の目には彼女は最初から女の子にしか見えていなかったし。くるくる動く大きな瞳、繊細な顔立ち、小さな唇。子どものような綺麗な柔らかそうな頬。化粧なんか必要ない、人の手の入らないその顔。 今現在の彼女に不満はないが、あの時の千百合だって充分可愛かった、と思う。 その彼女をまるで山猿のような言い草。その場でも内心かなりむっとしたが、思えばあの時点で既に奴も彼女に惹きつけられていたんだろう。だからあんなちょっかいを出した、とも考えられる。本当に酷いと思ったらあいつなら案外冷酷に放置するだけかも…。 その証拠に、ある程度髪や服装に手を入れはしたが、いうほど根本的な改造はしなかった。変にがっつり髪型を整えられたりくっきり化粧を施されはしなくて安心したが、この程度の改変?と拍子抜けするくらいだったのだ。なのに周囲の男たちが覿面に彼女に色めき立ったのには心底驚いた。どうも俺と彼らでは彼女を見るポイントというか、目の付け所が何か根本的に違ってたらしい。 その頃には竹田は既に彼女に特別な感情を自覚していたようで、もうそれ以上女の子らしい格好をさせて男の目を惹きつけるのが嫌になったらしい。彼女の変化は結果シンプルなものに留まった。あまりスカートやワンピース、それに当然露出の高いものは着せてもらえないということだ。その辺は親しくなった後に板橋が苦笑いで話してくれた。 「何でも次から次へとその手のものを持ってきては部屋の中でだけちゆに着せてみるんだってさ。もうまるで着せ替え人形みたいでうんざりだ、って話してたよ。だったらその格好で外に出してやりゃいいのにね。あの子はさほど服に関心がないから割に平然としてるけど、着たい服を着せてもらえないなんてそれだけで別れる女だっていると思うけど」 俺は想像するのも嫌で憮然とした。まるで変態の愛玩ぶりだ。 板橋は俺の気持ちを知ってか知らずか、多分ある程度察してはいるんだろうが(てか、俺本人が今ひとつ把握できないんだから正確なところは知る由もないんだろうが)、時折あけすけにそんなことを教えてくれる。千百合はそれでもそんなに二人の間のことを話したりはしないらしいが。 「竹田が酷いんだよ。なんでも聞かせやがる」
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