第11章 犬は迂闊に拾わない

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今回の千百合の活動は学校が公的に認める研修の一環なので交通費は支給される。そういう専用の基金があるのだ(でないと経済的に余裕のない学生は、殆ど校外での活動ができないので。芸能関係の仕事は殆どが東京、もしくはそれ以外の地方大都市圏にしかない)。しかしまあ当然かもしれないが、それはあくまでバスや電車等の公共交通機関の運賃で算出される。仕方ない気もするが、かかる時間を考えると正直あまり現実的ではない。それで最初千百合は、本格的に東京に滞在する前に会社に何回か顔出しする時は自分で車を運転して行くと言い出し、俺をびびらせた。 「いやいや、…マジで止めた方がいいと思う。こんなど田舎と運転の難易度が違うよ。高速もだけど、あんた多分都内無理だろ。事故ったら元も子もない。絶対止めろって」 「だって、車なら下手したら日帰りで済むじゃないですか。学校の舞台の方もあんまり他の人たちにばっかり負担かけらんないし…。一刻も早く移動したいから」 気持ちはわかるが。俺は表情を抑えつつも必死に言い募った。 「あんた都内の土地勘ないだろ。無茶言うな。俺の事務所からタクシーチケット出してやるから。それを使えよ」 彼女は目を剥いた。 「うえっ、タクシーなんか。…一体東京までいくらかかると思ってんすか。無理無理、勿体ない」 何言ってんだ。 「時間を金で買うんだよ。そういうもんなんだ。背に腹は代えられないだろ」 千百合は頬の片端で苦笑した。 「そりゃあ、立山くんはね。わたしらとは対時間のコストが全然違うじゃないですか」 うんまあ、そうなんだが。 「あんたの場合は安全を金で買うんだ。そこは割り切れ」 「いや無理。勿体ないおばけが出る」 何言ってんだこいつ。 しばらくそうやって不毛な言い合いをした後、なるべく都合をつけて俺のマネージャーが会社の車で彼女を送迎することにした。彼には申し訳ないが、その間俺の方は特に世話を焼く必要もなく、一人で大体何でもできるから、と言い張って押し切った。まあこの公演の準備期間が終わるまでの間だけの話だから。本格的に始まってしまえばいちいち帰らず、向こうにしばらく滞在しっ放しになる。 今日は最終リハーサル直前で、たまたま東京から戻るところの千百合と俺のスケジュールのタイミングが合ったので、初めて一緒の車で帰ることになったのだ。 「千百合さん、どうですか、本物の舞台の美術は」
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