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マネージャーが運転しつつ如才なく話しかける。背後で彼女の声がふわっと弾んだように聞こえた。
「…本当にすごいです。いつも舞台を観客として観てて、あれってどうやって作ってるのかなぁってずっと考えてたんだけど。…本当に人間が手で作ってるんですよね」
「そりゃそうだ。あんなもん作れる工場とかないだろ」
どんなに豪奢でも繊細に見えても、全部人間の手に依るしかない。この世に一つの一点物、大量生産も効かないし。
「舞台が終われば基本用がなくなるし。儚いもんだよな、舞台装飾って」
「うんまぁ、でも、そこが『よさ』かな。どんなに力を入れても細部に神経使っても終われば全部チャラ、ってのもすっぱりしてていいもんですよ。なんか、果てしなく続く文化祭みたいな感じなんだよね」
「ああ、なるほど」
感傷性のかけらもないあっけらかんとした物言いに何だか感嘆する。あんなに誠心誠意込めて作ってるのに終われば解体、ってのも本人たちは虚しいもんなのかなと思ってたけど。
「残らないものを作ってる、てのもなんか重くなくて気持ちがいいんですよ。作っては壊し作っては壊しの繰り返し」
レゴブロックか。
「まあでもわかる。舞台なんて基本そうだよ。俺たちのやってることも残らないもん。その場限り、その瞬間だけのものだから」
「そうそう。装飾だけじゃなく、全部がそうでしょ。だから寂しさとかはないよ。みんなその瞬間のために一体で作り上げて、終わったら消える。その一部ってことだからね」
「うん、そうだな」
俺は思わず頷いた。そういう一体感はある。
こいつとまたその中にいたい、と思ったのが今回研修を持ちかけた動機なのかもしれない。
「千百合さん、美術の会社の方になかなか評判いいですよ。この調子で頑張って下さいね」
彼には彼女に同行したり研修先と折衝したりを頼んでしまっているので、結果千百合のマネージャー兼任みたいな形になっている。余計な仕事を頼んで申し訳ないんだが、彼女が受け入れ先で褒められるので図らずもちょっといい気分になっているようだ。別にあんたの手柄ではないが。
「いえまあ、…まだ自己紹介と見学をさせてもらって、あとは雑用をちょこっとさせて頂いただけなんで。少しでもお役に立てるかどうかはまだこれからです」
その声に微かに重い心配が混じる。俺は口を挟んだ。
「あんたなら大丈夫だ。前向きな姿勢と素直な受け入れ、でかい声があれば七難隠せる」
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