第11章 犬は迂闊に拾わない

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別に俺は竹田に張り合おうっていう気はない。そこは声を大にして言っておきたい。 あんな風に四六時中べったりくっついていないと気が済まない様子も露わに、いつも触れていたいと言わんばかりに奴の手がそわそわと彼女の方へ伸びていくのを見てると、いや俺は全然こんなんじゃない、一緒にしないで欲しいと言いたい気分になる。誰にってわけでもないが。 俺は別に千百合に惚れてるわけじゃない。竹田の奴を見るたびに自分でもそう確信する。俺が彼女に抱いてる気持ちが何なのか、説明が難しいが、とにかく『これ』ではない。 なのに見ていると何となくイラッと来るというか、平静ではいられない。嫉妬、ではないと思うんだが。…うーん、いやまあ、一種の嫉妬なのかもしれない。 彼女に一番近いポジションを占めているのがどうして自分じゃないんだ?っていう違和感。 セックスして、キスして、抱きしめることが一番深い関係とは限らないと思ってはいるけど。そんな考えは甘いのか。やっぱりそこまでいかないと全部を共有することにはならないんだろうか…。 俺と彼女は異性同士なわけだし。 「…立山、こいつを送ってもらって済まないな。確かに受け取ったから。じゃあ、またな」 別にお前のために送ってきたわけじゃない。俺とマネージャーに頭を申し訳程度下げて、ぐいぐいと千百合の肩を抱いて引っ張っていこうとする。彼女は慌てて抵抗した。 「ちと待てや。わたしが何のために帰ってきたと…、うちのグループ、これからリハなんだってば。そっちにまず顔出したいの!」 「大丈夫。ちゃんと板橋に時間確認した。お前のグループ、舞台準備までまだ少し時間あるよ」 「部屋行くほどは…」 「ある。ちゃんと計算したから」 俺はちょっとうんざりした。何で俺はこんなじゃれつく二人を見てなきゃならないんだ。 「小川、俺先に行ってるから。後でリハでな」 声をかけると、遠ざかりながら彼女が何とも言えない表情で振り向いてこっちを見た。あれは何なんだろう。きまり悪げ、というか。竹田が人目も憚らずいちゃついてくる時、ふとああいう目で俺を見ることがある。 どういう意味なのかな、何考えてんだろう、といつもふと気になってしまう。俺の前で竹田にいちゃつかれても全然平気、というわけでもなさそうだ。 そう思うだけでも少し胸の内が甘くなる気がする。 「あーあ、連れてかれちゃった。これから部屋に連れ込まれてやられちゃうんだ」
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