第11章 犬は迂闊に拾わない

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俺は軽い口調でそう嘯くマネージャーの奴を睨めつけた。 「下品な言い方するな。あいつを変な目で見るなよ」 「いやまあ、そんな睨まなくても。想像したりしないよ、あの彼と部屋の中で何すんのかなーとかさ。全寮制の大学、いいよなぁ。親元離れて田舎に閉じ込められて、みんな結構やり放題でしょ」 中途半端に若いマネージャーの吉木はこういうところが微妙に嫌だ。気さくなつもりかもしれないがいくら何でもあけすけ過ぎる。俺は憮然として答えた。 「知らないよ。俺は一回もない、こんな学校なんかで」 「そりゃまあ。…ジュンキは何も素人の学生さんなんかと遊ばなくても。その気になればいくらでも相手には困らないから…、最近そう言えばあんまり遊んでないね。もうそういうの飽きちゃったの?」 咥えた煙草に火を点けながら平然と尋ねてくる。こいつには過去の行状全部知られてるってのも嫌だ。そろそろマネージャー替えて欲しい。 「もうああいうのはいい。充分。…そしたら、明日の朝迎えに来てよ。また連絡する」 「OK。…しかし、ちゆちゃんの彼氏、まさかのすごいイケメンだったなぁ。あれじゃあそうそう別れようって気にもなんないよね」 また俺のこめかみがピキッと鳴った。 「そんなん、その人間の何ごとも保証しないだろ。外見が何ほどのもんか!」 思わず吐き捨てると、吉木の奴は遠慮なく苦笑して見せた。 「身も蓋もないなぁ。てか、お前一応俳優だろ。…俳優が外見の価値否定してどうすんだよ?」 それでもリハ開始までまだだいぶ時間があったことは事実なので、俺もひとまず自分の部屋へ行く。僅かな時間でもとりあえず横になりひと眠りした後会場に赴くと、リハの準備は既に始まっていた。 「板橋さん」 まずはメイク室に行って衣裳を身につける必要があるが、まだ時間的に大丈夫だろうと見当をつけ、ステージ上に千百合の友人を見つけて近づく。彼女は難しい顔をしてセットを睨みつけていたが、俺の声に振り向いて一応微笑みを見せた。 「ああ、立山くん。…お疲れ様です。今日東京から戻ったんだよね?」 彼女とは千百合失踪の折、だいぶやり取りを交わした関係で親しくなった。俺はどうも、と呟き肩を竦める。 「あいつはちゃんと来た?」 誰のこと言ってるかすぐわかる、という表情であっさり答えた。 「さっきもう出てきたよ、部屋から。今はほら、あそこ。上の方」 その手が指す方をつられて見上げる。
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