其の壱

8/8
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「お前、名前は?国は何処だ?その格好、国から離れて来たのだろう?」 組んだ足に肘をつき気怠げな視線を送ると、和紗は観念したのかその場に正座した。 「名は……き、如月……和紗と申します。国は陸奥国会津です。藩主の松平容保様が新撰組なる浪士集団を会津藩の御預になされたと聞き、私もご参加したく遥々京へ参った次第です。」 「会津から女子一人でか?何故そうまでして新撰組への入隊を希望する?さっきの一太刀、腕は中々立つようだが、誰に教わった?」 「幼馴染と共に武芸を少々……遊びの延長でございます。私はいずれ、与えられた役目を果たしに故郷へ戻らねばなりません。その前に、少しでも容保様のお役に立ちたいのです。」 和紗の強い意志。それは恐らく”恋”故だろうと斎藤は思った。 年端もいかぬ女子が男の形をし、旅装束で京の街まで。それも藩主の力になりたいが為、浪士集団に入りたいとやってきた。そう簡単に出来る事ではない。 「与えられた役目?何だそれは?」 「……私は、あるお方に仕える身。今はお許しを頂いてこの地にいますが、いずれその方の元へ戻らねばなりません。それがあの方との”約束”なのです。」 そのある方、とは誰なのか斎藤は聞くのをやめた。 自分の置かれた状況を理解しているであろうこの女子が、わざわざ言葉を濁して不利な発言をしたのは恐らくその仕えている者が一角の人物なのだろうと考えたからだ。 言えるなら既に口にしているだろうと思っていた。 「成る程……まあ、秘密は多い方が面白い。いいだろう。丁度屯所での生活に飽きが来ていた。刺激を投入してみるのも悪くはない。」 「それでは、新撰組に入れていただけるのですか!?」 些か理由は如何わしいが、新撰組に入隊出来るかもしれないと和紗は興奮気味に声を上げた。 しかし、目の前の男は不敵な笑みを浮かべ座っていた樽から降りた。 「いいだろう。局長と副長に頼んでやる。」 「あ、ありがとうございます!!」 喜ぶ和紗を見下ろしながら、斎藤の手が和紗の後頭部を捉えた。 覗き込むようにしてニヤリと笑う。 「但し、条件がある。お前の秘密を守る代わりに……お前は俺の下僕になれ。それが出来ないのなら、今すぐ故郷に帰る事だ。」 悪魔の笑みとはこの事か。こうして、和紗は斎藤の下僕よろしく新撰組にめでたく入隊と相成ったのだったーー
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!