其の壱

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しかし、和紗はと言うと….…立場的に言えば他の平隊士達と同じで支配される側の人間である。 そんな和紗がこうして先生と呼ばれる組長格と方を並べていられるのには理由があった。 「斎藤先生ですか。あの人本当にやる気無さすぎて困ってるんですけど私。」 「仕方ないよ。はじめは昔からああだもん。にしても、入隊僅か半年ではじめの代わりに撃剣師範を勤めちゃうんだから凄いよ和紗は。」 「いや、まぁ……それには色々と事情がありまして。」 苦笑いを浮かべ言葉を濁す。 ぼんやりと自分の上司である男の事を思い浮かべると背筋に悪寒が走り、ブルブルと身震いした。 ーーちくしょう、あの事さえなけりゃ! 心の中で吠えてはみるが、思い浮かべた人物に一瞬で淘汰される自分が安易に想像できてしまい身をすぼめた。 「あー!!もう辞めだ辞めっ!今日の稽古は此処まで。お前ら全員使い物にならねんだよ。巡察に出て斬られちまえ!」 「地獄の時間が終わりましたね。お疲れ様です皆さん、少し休憩したら次の隊務に移動して下さい。」 隊士達の稽古は沖田の怒号により終わりを迎えたらしい。罵声と怒号、時に竹刀のムチを受け心身ともに疲弊しきった隊士達に和紗が労いの言葉をかけた。するとたちまち汗だくの隊士達の顔付きが爽やかさを取り戻していく。 むさ苦しい男所帯に、和紗のような華奢で顔立ちの良い者は時として男共の癒しになっているのだ。しかし、それを良く思わない者も居る…… 和紗の背後に黒い影が立った。
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