其の壱

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斎藤は訝しげに眉を寄せて言った。 「俺は新撰組の斎藤一だ。お前、刀は使えるか?みたところ脇差ししか持っておらんようだが。」 「新撰組の……方ですか?では、お願いします!私を入隊させて下さい。脇差しですが使えます。」 「ならば、腕試しと行こう。ついて来い。」 言われるがまま、和紗は斎藤の後ろをついて行く。京の街は小路がいくつも重なり合う碁盤のような地形。新撰組を名乗る男に素直に付いて行ってはみたものの、どんどんと人気が無くなって行く狭い小路を通る度に不安が胸をよぎっていた。 「ここなら邪魔は入らんだろう。」 足を止めた場所は行き止まりの小道、と言うよりも空き家と空き家の間に出来た路地だった。 斎藤は和紗の方へ振り返るとニヤリと笑う。 「簡単に人を信用して付いて来るのはどうかと思うが?俺が追?ぎやタチの悪い素浪人だったらどうする?」 「し、新撰組の方じゃないんですか?」 騙されたと思った和紗は後ろへ後ずさる。斯くなる上は抜刀も致し方ない……と覚悟を決めたが、斎藤はクックッとかみ殺すように笑うだけだ。 「もしもの話しだ。腕試しはしてやる。使い物になるなら俺から口を利いてやってもいい。かかってこい……」 からかうようにそう言った後、斎藤は静かに刀を抜いた。クルッと柄を回し峰打が出来るように構える。 それに倣う様に、和紗もまた脇差しを抜き柄を返し斎藤に相対したのだった。
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